一口に「うつ病」と言っても、色々な種類があります。
ここでは、うつ病診断で一般的に使用される診断基準(DSM-Ⅳ)と合わせて
分類して行きたいと思います。

(大)うつ病性障害

うつ病性障害とは、一般的な生活ができないほど重症、または落ち込んでいたり、
やる気が出なかったり、理由も無く悲しくなったり、
無気力な状態が継続して表れる状態の事を指します。

正確な原因はよく分かっていませんが、遺伝によるものや、何らかの原因により
神経伝達物質濃度や神経内分泌機能に異常が起きたり、
強いストレスなどの心理的要因が関係していると言われています。

うつ病性障害の治療は一般的には
抗うつ剤や抗不安薬などによる薬物療法と、カウンセリングをはじめとする精神療法、
そして場合によっては、微弱な電気刺激を当てて治療を行う電気痙攣療法になります。

世間一般で知られている「うつ病」という用語は、
数種類のうつ病性障害のいずれかを説明する際にも使用されています。

精神疾患の診断・統計マニュアル第4版(DSM-IV)によると、
特異的症状により3群に分類されている:すなわち、
大うつ病性障害(しばしば大うつ病と呼ばれる)、気分変調、および特定不能のうつ病性障害である。

これ以外に、病因によって2種類が分類されている:
すなわち、一般身体疾患によるうつ病性障害と物質誘発性うつ病性障害である。

うつ病性障害はどの年齢でも起こると言われていますが、
身体的や心理的に大きな変化がある10代や大きな環境の変化などが起きる20代,
30代に発症する事が多いとされており、実際の医療現場では,
30%もの患者が抑うつ症状を訴えるが,大うつ病を有するのは10%未満と言われています。

また、(大)うつ病性障害という言い方が、患者さんに「治らない」という印象や、
診断時に必要以上に不安にさせたり、精神的衝撃を与えてしまう危険があるとして
「(大)うつ病性障害」から「障害」という文字を無くし、「うつ病」と呼ばれる事も多いです。

抑うつ

抑うつ」は簡単に言うと、うつ病の初期段階、うつ病になる手前の段階です。
様々な環境の変化などに精神が対応できず、「うつ」の状態から立ち直れない状態で、
未だ病気ではなく、「気分が沈んで何もやる気が起きない状態」自体を指します。

多くは一時的なもので、時間の経過と共に改善して行きますが、
自殺概念やより深い悲しみなどを感じる事が慢性的になってくると、
うつ病を発症してしまいます。

大うつ病

「大うつ病」と聞くと、うつ病が重症化した状態と勘違いされるかと思いますが、
この「大」は英語でいう大多数(一般的)な意味を表すmajor(メジャー)から来ており、
「うつ病の中でも『主となる』タイプ」という意味合いで使われています。

では、他のうつ病の種類とどう分類されるかと言うと、
下記のチェック項目をもとに診断されます。

A.以下の症状のうち5つ(またはそれ以上)が同じ2週間の間に存在し、病前の機能からの変化を起こしている。これらの症状のうち少なくとも1つは、1.抑うつ気分、あるいは 2.興味または喜びの喪失である。 注:明らかに、一般身体疾患、又は気分に一致しない妄想または幻覚による症状は含まない。
  1. その人自身の証言(例:悲しみまたは空虚感を感じる)か、他者の観察(例:涙を流しているように見える)によって示される、ほとんど1日中、ほとんど毎日の抑うつ気分 注:小児や青年ではいらだたしい気分もありうる
  2. ほとんど1日中、ほとんど毎日の、すべて、またはほとんどすべての活動における興味、喜びの著しい減退(その人の言明、または他者の観察によって示される)
  3. 食事療法をしていないのに、著しい体重の減少、あるいは体重増加(例:1ヶ月で体重の5%以上の変化)、またはほとんど毎日の、食欲の減退または増加 注:小児の場合、期待される体重増加がみられないことも考慮する必要あり
  4. ほとんど毎日の不眠または睡眠過多
  5. ほとんど毎日の精神運動性の焦燥または制止(他者によって観察可能で、ただ単に落ち着きがないとか、のろくなったという主観的感覚ではないもの)
  6. ほとんど毎日の易疲労性、または気力の減退
  7. ほとんど毎日の無価値観、または過剰であるか不適切な罪責感(妄想的であることもある。単に自分をとがめたり、病気になったことに対する罪の意識ではない)
  8. 思考力や集中力の減退、または決断困難がほとんど毎日認められる(その人自身の言明による、または他者によって観察される)
  9. 死についての反復思考(死の恐怖だけではない)、特別な計画はないが反復的な自殺念慮、または自殺企図、または自殺するためのはっきりとした計画
B.症状は混合性エピソードの基準を満たさない。
C.症状は、臨床的に著しい苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。
D.症状は、物質(例:乱用薬物、投薬)の直接的な生理学的作用、または一般身体疾患(例:甲状腺機能低下症)によるものではない。
E.症状は死別反応ではうまく説明されない。すなわち、愛するものを失った後、症状が2ヶ月を超えて続くか、または、著名な機能不全、無価値感への病的なとらわれ、自殺念慮、精神病性の症状、精神運動制止があることで特徴づけられる。

大うつ病性障害、単一エピソード

大うつ病エピソードは失調感情障害ではうまく説明されず、
統合失調症、統合失調症様障害、妄想性障害、または特定不能の精神病性障害とは重なっていない。
躁病エピソード、混合性エピソード、または軽躁病エピソードが存在したことがない。

※「エピソード」というのは、新たな病気の意味ではなく、症状が発症している状態のことを指します。

軽症うつ病エピソード

軽症うつ病とは、上記判断表AからCのうち少なくとも2つ さらに1)から6)にうち2つの症状があり
いずれも著しい程度ではないもの(最短の持続期間は約2週間)。

身体症状をともなうものはさらにa)からg)のうち4つ以上はあること。

中等症うつ病エピソード

中等症うつ病とは、AからCのうち少なくとも2つ、さらに1)から6)のうち3つ(4つがのぞましい)が存在すること。
最短の持続期間は約2週間。

通常社会的、職業的あるいは家庭的活動を続けていくのがかなり困難になる
身体症状をともなうものはさらにa)からg)のうち4つ以上はあること。

精神病症状を伴わない重症うつ病エピソード

重症うつ病の定義として、かなりの苦痛と激越を示し自尊心の喪失や
無価値観や罪責感をもちやすい。身体症状はほとんど常に存在する。

A)からC)の症状すべて、さらに1)から6)のうち4つ、
そのうちいくつかが重症であること。

社会的、職業的あるいは家庭的活動を続けることはほとんどできない。

精神病症状を伴う重症うつ病エピソード

重症うつ病エピソードに加えて妄想、
幻覚あるいはうつ病性混迷が存在する。

混合性エピソード【双極性(感情)障害:旧名 躁うつ病】

うつ病といっても、ひとそれぞれによって症状は様々です。

ですが、近年うつ病という病名がメディアなどでも取り上げられ、
うつ病と診断される方が増えて来ております。

しかし、うつ病には単に落ち込んでいる状態(うつ)が続く「うつ病」もあれば、
一変して「何でもできそうな気分」になってしまう「躁うつ」と呼ばれる状態もあります。

このように、混合したエピソードを併せ持つうつ病のエピソードを【混合性エピソード】と呼び、
少し前までは、ハイになった状態を「躁うつ」と呼ばれておりましたが、混合性の意味合いを持つ
「双極性障害または双極性感情障害」と病名が変わりました。

日本人が生涯に発生する割合は0.2%と低いですが、
現在うつ病で苦しんでいる方の中にもこの「双極性障害」である事に気付かない方も、
相当数いらっしゃると思います。

「双極性障害」というのは、簡単にいうと、その名の通り落ち込んでいる「うつ」の状態と、
その反対にある「ハイ」な状態を併せ持ち、それらが1年に1〜2回に訪れる病気と言われています。

しかし、年に2回以上訪れる場合もあり、その多くは不定期に訪れ、
例えば、1年間に4回以上このサイクルを繰り返す場合、
通常のサイクル(Cycling)よりも「早い(Rapid)」ので、「ラピットサイクル(Rapid Cycling)」と呼ばれ、
それを患っている方を「ラピットサイクラー(Rapid Cycler)」と呼びます。

ラピッとサイクラーの特長としては、「深刻な神経過敏」、「怒り」、「衝動的」があり、
突然の予測不可能な感情の変化により、感情が爆発したように見えます。

また、サイクルの期間も1日の中で「ハイ」な状態から「うつ」の状態まで変わる場合もあり、
時には時間単位で変化する事もあります。

サイクルが1ヶ月に4回訪れる場合は、ラピットよりも更に「早い(Ultra)」、
「ウルトラサイクル(Ultra Cycyel)」、サイクルが1週間の内に数日訪れたり、
1日の中でサイクルがある場合は「Ultra-Ultra」または「Ultradian Cycling」と呼ばれます。

しかし、上記のような特殊なケースであっても、
多くは一時的なものであり、時間の経過とともに徐々に安定していったり、
治療により改善されていくケースがほとんどです。

他のうつ病性エピソード

他の診断基準にはあてはまらないが診断から抑うつ的と示唆されるもの。

例えば身体的に異常がない頑固な痛みや、疲労を伴う身体性の抑うつ
症状が混合しているものなど。非定型うつ病。

仮面うつ病

仮面うつ病とは、抑うつ症状より先に、頭痛、からだの痛みやしびれ、
めまいなどからだの症状があらわれるタイプです。

仮面とは「からだの症状という “仮面”に隠れたうつ病」を意味します。
決して、うつ病の患者さんが仮面のように無表情という意味ではありません。

非定期型うつ病

通常、うつ病になると、抑うつ症状が2週間以上持続するのに対し、
楽しいことなどのきっかけがあると、一時的に気分がよくなるタイプです。
20~30代の若者に多いといわれています。

「新型うつ」などと呼ばれる、仕事中にだけ「うつ」状態になるのも
この「非定期型うつ病」が近いと言われています。

退行期うつ病

老年期にさしかかる頃、社会的立場や環境の変化が要因となって発症するうつ病のタイプです。
年代を反映して、初老期うつ病と呼ぶこともあります。

また、脳内の神経伝達物質の働きに影響を及ぼす「エストロゲン」と呼ばれる女性ホルモンが、
閉経によってバランスをくずし、うつ病を発症することもあり、こちらは更年期うつ病とも呼ばれています。

微笑みうつ病

微笑みうつ病とは、
うつにかかっており、本当は精神的に苦しいのですが、
自分がうつであることを、まわりに気づかれないようにするために、
にこやかに微笑を浮かべている状態を表します。

大うつ病の初期症状であることが多いです。