恋人がうつ病になった日、一つのルールを決めました


二十台の盛りに、それまで付き合っていた人に裏切られ、人間不信になっていた時期に一人の男性と出会いました。
とてもまじめで誠実な彼は、落ち込んでいる私を真剣に受け止め寄り添ってくれました。
その心やさしい人柄に惹かれ、お付き合いすることになった時の彼の笑顔は今でも忘れられません。

お付き合いを続けるうちに、彼は自分のまじめさから来る不器用さに悩んでいることを知りました。
無茶な事でも頼まれたら断れない、自分を犠牲にしてでも相手のためになりたいという痛々しいまでの献身的なやさしさは、徐々に彼の心を蝕んでいきました。

ある日、ぽそっと「もう職場には行けない」と言い、その日のうちに逃げるように退職をしてしまいました。
彼の両親に引きずられるように連れて行かれた病院で出された診断は「うつ」。
その診断すらも、彼にはショックが大きかったのだと思います。

家に引きこもり、ふさぎこむ彼を見て、私は途方にくれました。
あのやさしい笑顔も、包み込むような佇まいも消えうせて、薄暗い部屋に本当に消え入りそうになる彼。
彼自身もまた、そんな自分を私にさらすことが辛かったのでしょう。
小さな声で「ごめんね、ごめんね…」と繰り返してばかりいました。
彼はこんなに苦しんでいたのかと気づかされ、とてつもなく悲しくなりました。

助けてあげたい。なんとしても助けてあげたい。
そう決めた私はさっそく行動に出ました。
それは「決して私から手助けをしない。ただずっと寄り添っている」。これだけでした。
たった一つのこのルールを、私は徹底して遵守することにしました。

彼が病院に行くと言えばついていく。
やる気がおきないと家で寝るときもそばにいる。
すべてが恐ろしくなり、不安でいっぱいになって震えているときも離れない。
でも決して、自らアドバイスや指示などはしませんでした。

どんな些細なことでも、彼が自分で行動することが何より大事だと思ってたからです。
その行動がどんな結果になろうとも、私だけは離れないでいようと。
誰よりも彼を信じてあげようと思っていたからです。

一年もそんな交際を続けていたころに、彼がぽつりと「ありがとう」と言ってきました。
うつ病になり、人に対する余裕をなくしてしまった彼から、感謝の言葉がつむがれました。
「どんなときもそばにいてくれてありがとう」と言ってくれました。

うつ病とは、自分に対する自信と人に対する自信の両方を失ってしまい、足場がなくなっている状態なのかもしれません。
特別な言葉をかけてあげなくても、素敵な贈り物をしなくても、あなたはとても大事な存在なのだよと伝えることができるなら、それは確固たる自信につながるのではないでしょうか。

何よりも、相手を尊重すること、うつ病でも一人の人間であるということを忘れずにいることが肝心なのだと思います。
うつ病の人に、ただ手を差し伸べるだけが支えではありません。
ひとりのかけがえのない人間として受け止めて向き合うことが大事なのではないでしょうか。


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